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宇都宮地方裁判所 昭和29年(行)6号 判決 1955年6月30日

原告 滝沢ナヲエ

被告 栃木県知事

補助参加人 平塚キワ

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が昭和二十八年十一月十五日附栃木県指令農政第八六〇三号を以てした別紙目録記載の農地に対する贈与許可の処分が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として次のとおり陳述した。

(一)  被告は昭和二十八年十一月十九日附栃木県指令農政第八六〇三号を以て農地法第三条第一項の規定により別紙目録記載の農地の所有権を滝沢キイから平塚キワに贈与によつて所有権を移転することを許可した。

(二)  しかし右許可の行政処分は次の理由によつて無効である。右農地の所有権の移転を受けるべき平塚キワ及びその世帯員は製板業を営んでいるものであつて、本件農地について耕作の事業を行わないものであるから農地法第三条第二項第二号の規定に照し、被告は本件農地の所有権を平塚キワに移転することを許可することはできないものだからである。

(三)  而して原告は訴外滝沢キイの子であつて滝沢キイはその後死亡したため同女の財産を相続したものであるから、本件行政処分が無効であるとすれば本件農地の所有権は平塚キワに移転せず、従つてこれについて原告も相続分を有する筈であるのでその無効確認を求めると述べた。

(証拠省略)

被告指定代理人は、主文同旨の判決を述め、請求の原因に対する答弁として次のように陳述した。

(一)の事実は認める。

(二)の事実は否認する。農地法第三条第二項第二号の趣旨は所有権、地上権等の権利を取得しようとする者及びその世帯員が同該農地につき耕作の事業を行わないことが諸般の状況から推して客観的に明白である場合と解すべきである。ところが平塚キワは農業に経験があり、本件土地を取得して耕作する意思がある。諸般の状況から推して耕作の事業を行わないと認むべき何等の根拠もない。その他本件許可処分は農地法第三条第二項各号のいずれにも該当しない適法有効な行政処分である。

而して(三)の事実については明らかに争わなかつた。

(証拠省略)

理由

一、被告が昭和二十八年十一月十五日附栃木県指令農政第八六〇三号を以て農地法第三条第一項の規定により別紙目録記載の農地の所有権を訴外滝沢キイから平塚キワに贈与によつて所有権を移転することを許可したことは当事者間に争がない。

二、そこで被告のなした本件行政処分が無効であるかどうかについて判断する。農地法によれば本件のように農地の所有権を移転しようとする当事者は、同法第一項但書に定める場合を除き所轄都道府県知事の許可を受けなければならないこととし、同条第二項は知事において右許可をなし得ない場合を列挙しているのであるから同項に列挙した事由がある場合には知事が許可したとしてもその行政処分は無効であると解しなければならない。そこでまず、原告の主張にそつて本件許可処分が農地法第三条第二項第二号の規定に違反するかどうか、換言すれば本件農地の譲受人である平塚キワ及びその世帯員が本件農地について耕作の事業を行わないと認められるかどうかについて考えてみるに、この点について成立に争のない甲第五乃至第七号証及び原告本人尋問の結果(以上いずれも措信できない部分を除く)によれば、昭和二十九年四月頃平塚キワが本件農地を売りに出した事実が認められるけれども、証人平塚キワの証言によればそれは、同女が本件農地の贈与を受けた後滝沢キイの生前、同女と同居していたときから本件農地を耕作していた原告に対してその引渡しを求めたけれど応ぜず、そのため原告との間に争を生じたので、その争を避けるために本件土地を他に売却し、その換地を他から求めようとの考の下にしたものであることが窺われるので、前記事実を以て本件許可処分当時平塚キワ又はその世帯員が本件農地について耕作の事業を行わない証左とすることはできず、又甲第一乃至第三号証及び第四号証の一乃至三の記載は必ずしも原告の主張事実を首肯せしめるものではなく、他にこれを肯認せしめる証拠はない。却つて成立に争のない丙第一号証同第三号証及び同第五号証の一乃至五並びに証人佐藤信、福島畊治、石沢金作及び平塚キワの各証言を綜合すれば、平塚キワが本件農地を取得したのは、自らこれを耕作するつもりであることが首肯でき農業に精進する見込が認められなくもない。要するに平塚キワ又はその世帯員が本件農地について耕作を行わないという認定はできないのである。而して本件許可処分が農地法第三条第二項掲記の他の各号のいずれにも違反するものでないとの被告の主張は原告も争つていない。そうだとすれば本件行政処分が無効であるということはできないのである。

三、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田実)

(目録省略)

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